日本は、世界で初めて「超高齢社会」に突入しようとしています。国民の3人に1人が65歳以上となるこの人口構造の変化を、長寿・健康・コミュニティの最前線で活動する創業者たちは、危機ではなく、現代における最も魅力的なイノベーションの機会と捉えています。
「Changemakers Unplugged」は、さまざまな業界で活躍するチェンジメーカーたちを招き、彼らのストーリーを深掘りしながら、これからの社会に求められる思考や価値観を、多角的かつ率直に議論していくシリーズイベントです。
その第1回が、Impact HUB TokyoとGoogle for Startupsの共催で開催されました。登壇者は、Project MINT創業者の植山智恵氏、CogSmartの樋口彰氏、そしてSHOSABI創業者の神山祥子氏の3名。高齢化関連市場でそれぞれ製品・サービスを構築してきた実践者たちです。「高齢化を機会として捉え直す視点」「現場から学ぶプロダクト開発のリアル」「持続的なスケールと社会実装への道筋」という3つのテーマで議論が展開されました。
本記事では、当日の対話から得られた、特に印象的なポイントをお届けします。
日本はグローバルな実験場。ローカルな問題にとどまらない
登壇者たちが口をそろえて言っていたのは、日本の高齢化の流れは日本だけのものではないということ。アジア、ヨーロッパをはじめ、多くの国が今後20年以内に同様の人口動態に直面します。彼らは日本を、ソリューションを試し、磨き、やがて世界に届けられる「生きた実験場」として捉えていました。ここで生まれるものが、世界各国の高齢化への向き合い方を変えていく可能性があります。
「ユーザー」とは誰かを、問い直す
高齢化市場は、スタートアップが当たり前のようにもっているユーザー観を根本から揺さぶります。Project MINT創業者の植山智恵氏が指摘したのは、ミドル〜シニア世代のプロフェッショナルが、主体性も志も可能性も持ちながら、見過ごされがちな存在であること。
定年後のキャリアを再定義する彼女の取り組みは、「高齢者はケアの受け手にすぎない」という思い込みに疑問を投げかけ、年齢が創造性やリーダーシップの原動力になり得ることを示しています。
介入の前に、まず測定を
CogSmartの樋口彰氏は、認知機能の健康と長寿について、研究に根ざした視点をもたらしました。東北大学における25年以上の認知症予防研究を背景に、「まず本人の現在地を把握してから支援を設計する」というアプローチの重要性を強調。寿命を延ばすだけでなく、自律性・目的・人間関係・ウェルビーイングを支えるという、より広い視点で長寿を捉えていました。また、アカデミアとビジネスという、インセンティブも時間軸も成功の定義も異なる二つの世界の間で事業を進める難しさについても、率直に話してくれました。
CogSmartのような大学発スピンオフにとって、厳密な研究を実用的な製品へと変換するということは、そのギャップを絶えず橋渡しし続けることを意味します。
身体は知っている——耳を傾ければ
SHOSABI創業者の神山祥子氏は、長寿に「動き」という新しい視点を持ち込みました。三菱ケミカルグループからスピンアウトしたSHOSABIは、AIを活用したモーションセンシングで、身体の微細なズレをダメージが起きる前に検知・補正します。
彼女のメッセージは明快です。長寿イノベーションは、必ずしも臨床現場でのハイテク介入から始まらなくていい。日常生活の中でより良い動き方を支えるという、シンプルなところから変えていける。SHOSABIはすでにロンドン、ドバイなど世界各地のジムやウェルネスクリニックで導入されています。
パートナーシップそのものがプロダクト
3名全員が共通して挙げたのが、自治体、医療機関、企業、地域コミュニティとのパートナーシップの重要性です。
一般的なB2CやB2Bテックとは異なり、高齢者向けの製品は既存の信頼ネットワークに組み込まれる必要があることが多い。パネルでは、「そうしたパートナーシップの構築と維持が、仕事の8割を占める」という本音も語られました。
希望を感じるもの
イベントの締めくくりでは、各登壇者が「何に希望を感じるか」を語りました。
共通して挙がったのは、日本が持つ高度なインフラ、高齢者への文化的な敬意、そしてミッション志向の起業家たちが形成するエコシステムの成長が、長寿イノベーションにおいて日本を独自の立場に置いている——そうした確信が、登壇者に共通していました。。あとは、漸進的な改善にとどまらず、私たちの生き方・働き方・老い方に対して、より大胆で人間中心のアプローチを社会全体で受け入けるかどうか。そこに大きな可能性があります。
「Changemakers Unplugged」は、Impact HUB Tokyoによるイベントシリーズです。
起業家やエコシステムパートナーが社会の重要な課題にどう取り組んでいるかを、率直な対話、リアルなストーリー、そして本当に大切なものを創るという姿勢を通じて探ります。

